中期経営計画を作る現実的な考え方 ~~小さな会社でも基本は同じ~~
4月から事業年度が始まる会社の多くでは、年明けぐらいから年度の経営計画を組み始めることと思います。年度を跨がる中期経営計画の場合は、年度計画より少し早く計画作成を始めることが多いかもしれません。
一部では中期経営計画のことを略して『中経(ちゅうけい)』と呼ぶ言い方もあり、中期3か年計画か、中期5か年計画で組むことが一般的でしょう。具体的な数字で業績の進捗管理をする側面の強い年度計画に対し、中期経営計画は会社の経営戦略を可視化して盛り込むという違いがあります。あまりに長期間の計画ほど(未来は見通せませんから)数値化する意味が減少しますので、長期的な目標は『ビジョン』や『コンセプト』を制定して表現します。
中期経営計画の作り方
様々なビジネス本やWebページで紹介されている通りで、奇抜な方法論はありません。
上記の1〜3を上流工程と言ったりしますが、この部分の存在が年度計画を作る時との最大の違いです。年度計画と同じように現場主導の積み上げ方式で中期経営計画を作ると、一番大事な1〜3の部分が抜けがちになります。戦術の話から戦略の話に進むのは無理がありますが、多くの企業でこれが行われており「中期経営計画の作成は、労力の投入の割に意味が無い。」と言われる所以です。戦略の話から入るのですから、トップダウンアプローチが必ず必要です。
そもそも中期経営計画って必要なの?
中期経営計画の必要性やメリットについては、星の数ほどのWeb情報や経営本で紹介されているためここでは割愛し、別の観点からお話しします。20年ぐらい前までは、経営者や経営企画をミッションとする人の間でも「中期経営計画って所詮マスターベーションだよね。」なんて言い方がありました。(今の時代に口にすると何らかのハラに該当しそうで、最近は聞きません。)そう考える背景やメカニズムは以下の三点です。
1.外部環境による変化
当時の経済環境を合わせて考えると、あながち完全に間違ってるとも言い切れません。バブル崩壊や金融システム危機での貸し剥がしなどで、自社の経営を取り巻く環境が大きく転換した時期だったからです。外部環境の流れによる影響は、一企業がどうこうできるものではありません。近年では2007〜2008年のリーマンショックや、2011年の東日本大震災がこれに該当します。2020年〜2022年頃のコロナ時代も一部の業種業態では極めて大きな外部環境の変化でした。
2.案件の成否によるブレ
全体に占める個別案件の割合が大きい会社だと、案件の成否によるブレが大きく、緻密な計画を立てても手間暇が割に合わないと感じます。プロジェクトの金額が大きい建設業や、そもそも全体の売上規模が小さい零細企業やスタートアップ企業が代表例です。誤解が多いのは、個別案件のウエートが大きい会社では中期経営計画が不要という意味ではなく、それ以外の業種業態の会社よりも「案件管理」に傾けてリソースを割いた方が現実的という意味合いです。
3.社外に見せるための計画
割りに合わない訳ではないのですが、外部に見せることを主目的に中期経営計画を作るケースです。多くの場合は銀行融資や投資資金を引き出す目的で作られます。上場企業のIR用途でもたまに見聞きします。現実を直視して修正するよりも、現在の延長線上で楽観的な未来を描くことが重視されます。外部コンサルに来る依頼の多くがこののケースですので、想像以上に多いのではないでしょうか。
内部環境と外部環境
大抵の場合、中期経営は自社の成長や売上、自社投資をイメージし、計画数字として最終的にはBS/PL(決算書)に落とし込まれます。ただ経営者が最も注目するのは『利益』ですから、結果的に大抵の場合は、利益が右肩上がりになるように組まれます。よく「実力値より少し背伸びしたぐらいの目標が望ましい。」とは言います。しかし出資者や借入などの関係で、実力値より大幅に乖離した中期計画を組む、あるいは組まざるを得ない状況の会社も珍しくありません。やむを得ない場合もありますが、内部環境と計画が乖離した状態なのであまり望ましくはありません。
また近年では、社員の高齢化が中期経営計画の策定時に問題視されるケースも増えました。人事戦略の分野における課題で、これも内部環境と言えます。日本全体の少子高齢化問題と同じように、社員の『人口ピラミッド』を作成すると課題の把握自体は難しくありません。社員の高齢化問題は根が深く、対策に時間が掛かる話ですから、中期経営計画にアクションを入れるのが望ましいです。
外部環境については、前提条件を明確にします。経営環境の激変時に耐えるにしても、そもそもの前提条件を把握していなければ話が始まらず、出遅れる結果になります。「為替」「金利」の前提では一定の信頼性がありますが、自社が属する市場の景況感は、予測が願望である危ない側面も見受けられます。外部環境を見誤った投資や採用が命取りになった会社は、誰もが見て来ているハズです。にもかかわらず、中期経営計画を策定する時には軽視、もしくは考慮しない、状態の会社が非常に多い不思議があります。
想定外の事態への対応
リーマンショックや、東日本大震災の時は、ほとんどの企業で事業計画は機能しませんでした。リーマンショックの時は金融システムが毀損したこと、東日本大震災の時はサプライチェーンの毀損です。
コロナ危機の時は飲食を中心とした需要激減が酷かったですが、全体としてはゼロゼロ融資により資金繰りが持ち堪え、問題を先送りすることに成功しました。それでもコロナにより人々の生活様式が変わった影響は非常に大きく、ゼロゼロ融資で時間を稼いだ間に既存のビジネスモデルの見直しをすべき業種業態が多数出たのは記憶に新しい所です。
これら『◯◯ショック』が起こった初期では、影響を見定めることや理解することは現実的には無理があります。リーマンショックでも、フランスの銀行のパリパがサブプライムローン問題で破綻してから、アメリカのリーマンブラザースが破綻し、金融システム危機に発展するまで1年程度かかりました。パリパが破綻した頃、日本の金融業界の現場でサブプライムローンを理解していた人は極めて少数でした。その極めて少数の人の中でも、当時に世界金融危機にまで発展すると思った人は更に少数派だった印象です。
既存の中期経営計画や新規の計画があるのなら、ペンディングするか、作成を延期するか、既存の計画を見直すかの決断が必要になるのは確かです。現在進行形で外部環境が激変している最中で未来予測はできない、と様子見するのは時と場合によっては正しいでしょう。
まとめ
中期経営計画を立てることにより短期経営計画が立てやすくなるのが、直接的に感じるメリットではあります。上場企業や資金繰りの関係など、外部に見せる為の計画が必須である場合もあるでしょう。ただ本質的なメリットは、中期経営計画を立てる過程で自社を客観視することが、想定外のことが起こった場合や、外部環境の変化に対する抵抗力です。計画の改善がしやすくなることは、変化に対応できる企業に結びつきます。
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