クレディ・スイスの経営危機、資金流出が止まらない!
クレディ・スイスはスイスの国策会社で、世界トップ10に入るチューリッヒに本店を置く金融コングロマリットです。かつては「クレイジースイス」などと呼ばれ暴れ回った時期もありました。
今回の経営危機の理由が?でよく解らない
アルケゴス・ショック
2021年3月末に米ヘッジファンドのアルケゴスが破綻してクレディ・スイスは50億スイスフラン(約5,900億円)の損失を計上しました。世界全体の損失額は1兆円ぐらいではないかと言われました。アルケゴスはアジア投資が主力でしたが、破綻時の調査で「今時じゃない怪しい丸投げ取引」だった記憶が残ってます。ちなみに当時、アルケゴス創業者のビル・ホワン氏が関わる「新宿で財団法人を名乗る宗教団体」がバレました。野村ホールディングスのアルケゴスでの損失は29億ドル(3,100億円)だそうです。
OCCRPによる告発
2022年2月頃には「クレディ・スイスには80億ドル(約9,500億円)超の犯罪性不正預金がある」とドイツのジャーナリスト組織OCCRPから告発されていました。ウクライナ戦争が始まった後、クレディ・スイスは「ロシア向けジャンク債を持っているんじゃないか?」とか「欧州で流行っている電力や天然ガスのデリバティブ取引を持っているんじゃないか?」などの流言もありました。
クレディ・スイスCEOによるメモ
ところが2022年9月30日(金)、ウルリッヒ・ケルナーCEOが社内向けに出したメモの内容が衝撃的でした。
「今が同行にとって正念場であり、市場のボラティリティがさらに高まることを予期すべきである!」
「10月27日に経営変革案を発表する」
これがリーマンショックを連想させました。英語圏の「2ちゃんねる」と言われる掲示板Redditから炎が燃え上がったようです。週明けの10月3日(月)、クレディ・スイスの株価は一時▲12%まで下落した後、終値は▲1%まで戻す大相場になりました。
参考までに、そもそもクレディ・スイスの現在の株価は、年初の半分以下の水準です。
ゴールドマン・サックスによる試算
さらに10月11日、ゴールドマン・サックスが「クレディ・スイスは最大80億スイスフラン(約1兆2000億円)の資本不足に直面する!」と発表しました。いつもなら「どうせゴールドマンのポジショントークだろ」といった受け止め方を金融関係者はするのですが、今回は「理由が良く解らない」ゆえに「まだ何か出て来るんじゃない?」といった感じがします。
まとめ
15年前のサブプライムローン問題、2007年の春にフランスのBNPパリパがファンドでの大損で潰れそうになったことから始まり、2008年秋のリーマンショックでピークになりました。予想外のことが突然起こったと総括している資料や本も多いですが、嘘です。少なくても2006年の秋には日本の金融業界の現場では「サブプライムローンって流動化のヤバいやつだろ?」と言った会話はなされていました。
金融システム危機にはならないので、今回のクレディ・スイスの件が「始まりの始まり」になる可能性は高く無いでしょう。ただ理由が明確でないのが気持ち悪く、もう少し注視する必要があります。
【2023年3月14日 追記】 決算数字が悪すぎでマズイ
2023年2月に2022年の決算数字が公表されましたが、中身が悪すぎでした。昨年11月に40億スイスフラン(約5,800億円)の資本調達に成功したので、中核的自己資本(Tier 1=CET1)比率は14.1%と及第点の数字を維持できました。しかし詳しく見てみると、年間の貸倒引当金繰入が1,600万スイスフラン”しか”計上していません。ちょっと有り得ないので、色々なことを先送りしてそうです。
現在、格付会社のスタンダード&プアーズ(S&P)は、クレディースイス債権をジャンク(投資不適格)の一歩手前に格付けしています。少しだけサブプライムローン問題に端を発したリーマンショックの時と雰囲気が似てきました。しかしクレディの株価はピーク時の1/10ぐらいまで下落しましたので、逃げるべき人は撤退し終わってるでしょうから「リーマンの時のような金融ショックの可能性は低い」との考え方に変更はありません。
【2023年6月5日追記】 日本でのAT1劣後債の販売、吸収したUBSも厳しい
結果としてクレディ・スイスはUBSに吸収合併され、数年に渡るクレディ・スイス問題に終止符が打たれました。しかし最後に予想外の地雷が出てきました。事実上のデフォルトで吸収合併ですので、資本性劣後債(AT1債)は無価値(=全損)になることに疑問はありません。ところが三菱UFJモルガン・スタンレー証券が950億円分、みずほ証券は40億円分の資本性劣後債(AT1債)を国内販売していたことが判明。富裕層営業でこの手のタチが悪い金融商品売るのは、ちょっとどうかと思います。
今回の件で危なさが再認識され、資本性劣後債の市場は大きく下げました(=金利は上がった)。 クレディ・スイスを吸収したUBSですが、皮肉な事にTire1資本に占める資本性劣後債(AT1債)比率は28%もあります。欧州大手行で最も高い水準です。しばらくは発行に厳しい環境が続くのは確実ですから、UBSも厳しいです。