女性社員から妊娠の報告を受けたら準備しておきたいこと

こちらのコラムは、初めて部下が産休育休を取得する上司の方や、産休育休を取得した前例のない企業の総務担当の方に向けたものです。産休育休に向けて用意する書類などが多いので、今回のコラムは少し長めです。目次から知りたい内容に飛んでください。また、今回は女性に焦点を当てていますが、育児休業に関するものについては妻が妊娠した(出産した)男性社員にも適用されます。
※できるだけ必要なものは記載しているはずですが、詳細は日本年金機構や健保組合等へご確認ください。

目次

妊娠の報告を受けたらまず確認しておきたいこと

女性社員から「妊娠しました!」と報告を受けたら、まず女性社員に対して確認しておくべきことがあります。

出産予定日

出産予定日によって、産休の開始日が決まりますので、最初に確認しておきたい事項です。会社独自の就業規則がない場合は、労働基準法に則って期間が決まります。労働基準法では、産前休業は出産予定日の6週間前から、産後休業は出産の翌日から8週間までと定められています。双子などの多胎妊娠の場合は予定日の14週間前から産休を取得できます。厚生労働省のホームページで自動計算してくれますので活用しましょう。
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/leave/

復帰時期の目安

会社独自の就業規則がなければ、育児介護休業法によって、子どもが1歳になるまで育児休暇を取得する権利が与えられます。ですが、保育園は基本的に4月入園でないと入れないことが多いので、最大で子どもが2歳になるまで育休を延長することが可能です。

例えば2023年7月生まれだった場合、2024年7月入園で申し込みを行いますが、中途半端な月のため、ほぼ確実に落選することになります。となると、2025年4月入園まで待機児童となるのが一般的です。育児休業を1年取らずに、2024年4月で0歳児を入園希望することももちろん可能ですが、0歳児はそもそも保育園の受入定員数が少ないため、地域によっては落選する可能性が高いです。会社としては、あまり早期復帰を期待せずに、2025年4月に復帰するつもりで動いたほうが得策です。また0歳児を他人に預けることに抵抗があり不安を抱えている方も多くいらっしゃいます。会社としては早期に復帰してほしいところですが、早期復帰するように圧力をかけることは離職につながるおそれもあり、賢明ではありません。

女性社員が抱えている仕事内容

報告を受けたのが上司であるならば、出産予定日に向けての引き継ぎや、産休&育休中の仕事の割り振り、新規で雇用する必要があるか等、女性社員が復帰するまでに仕事が滞ることがないように計画が必要です。ちなみに、復帰する女性社員に、元々の仕事内容から大きく異なる部署に配属したり、雇用形態を正社員→パートに変更等した場合はマタハラに該当し、労基署に訴えられかねません。会社の状況によって仕方ないこともありますが、そのような状況にならないようできるだけ配慮し、本人とよく話し合いを行ないましょう。

また、労働基準法で妊産婦が重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所での業務に就くことは禁じられています。立ち仕事や深夜残業などの流産につながるような母体に負担のかかる仕事を担当している場合は、本人とよく話し合い、お互いに無理のないよう仕事内容を見直しましょう。

出産育児一時金直接支払制度の確認

「出産育児一時金直接支払制度」とは、出産費用を健保組合から医療機関へ、最大50万円の支給額が直接支払われる制度のことです。岸田政権の「異次元の少子化対策」のひとつで、令和5年4月から42万円⇨50万円に増額したことで話題になりましたね。

「出産育児一時金直接支払制度」を導入している医療機関は多数ありますので、その場合には、本人と医療機関から所属している健康保険組合に請求すればよいので、会社は特に何かする必要はありません。問題は分娩予定の医療機関に「出産育児一時金直接支払制度」の取り扱いがない場合です。この場合は、医師からの出産証明書を企業を通して健保組合に提出する必要があります。まずは分娩する医療機関が決まっているか?そして「出産育児一時金直接支払制度」の取り扱いがある医療機関かどうかを確認しておきましょう。

扶養について

出産した子どもを扶養に入れる場合は、前回の年末調整に子どもを追加して申告する必要があります。本人の扶養とするのか、配偶者の扶養とするのか、確認しておきましょう。

企業側のやることリスト

①産前産後休業取得者申出書⇨年金事務所へ

この申出は、被保険者から産前産後休業取得の申し出があった場合に事業主 が行うものです。この申出により、産前産後休業開始月から終了予定日の翌日 の月の前月(産前産後休業終了日が月の末日の場合は産前産後休業終了月)ま での期間の保険料が免除されます。

▼日本年金機構HPより
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/menjo/20140326-01.files/0000019327eTTpHL0YvX.pdf

この申出書は、産休中〜産休終了日から1ヶ月以内に、事業主が年金事務所に提出しなければなりません。出産前に提出する場合は、出産予定日を基準にして終了予定日を記入します。その後、実際の出産日で計算し直し、変更届を提出します。出産後に提出する場合は、実際の出産日を基準に産休期間を計算し、記入します。産後だと1度の提出で済みますが、産前の社会保険料は請求されます。(一旦納付する必要がありますが、申出書が受理されれば調整されます。)

②出産手当金支給申請書⇨健康保険組合へ

被保険者が出産のため会社を休み、事業主から報酬が受けられないときは、出産手当金が支給されます。 これは、被保険者や家族の生活を保障し、安心して出産前後の休養ができるようにするために設けられている制度です。

▼協会けんぽHPより
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31712/1948-273/#teatekin

上記は協会けんぽより引用させていただきましたが、提出先は所属する健康保険組合となります。書式も健保組合によって異なりますので、所属している健保組合のHPをよく確認しておきましょう。

書式は健保組合によって異なりますが、内容はだいたい同じです。提出するのは本人でも事業主でもどちらでも構いませんが、添付書類として勤務状況や賃金支払い状況を記入したものが求められますので、必ず事業主を介することになります。産休開始の翌日〜2年以内に提出しましょう。

③健康保険被扶養者異動届⇨年金事務所へ

「産まれました!」の報告を受けたら、速やかに年金事務所に提出する必要があります。夫と妻のどちらの扶養に入れるかは、産休に入る前に確認しておきましょう。
▼日本年金機構 書式
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/hihokensha/20141224.html

④育児休業取扱通知書⇨育児休業取得者へ

育児介護休業法により、「育児休業取扱通知書」を育児休業を請求してきた社員に対して交付することが義務付けられました。社内文書なので書式は企業側が用意しますが、ここでは厚生労働省の書式を載せておきます。ご参考まで。
https://jsite.mhlw.go.jp/shiga-roudoukyoku/content/contents/000951668.pdf

また、「育児休業取扱通知書」を交付する前に、そもそも育児休業を取得する社員から「育児休業申出書」を提出してもらう必要があります。こちらも社内文書のため、書式はなんでもいいです。こちらも厚生労働省の書式を載せておきます。提出してもらうタイミングは、育児休業に入る前で構いませんが、育児休業を取得することが最初から決まっている場合は、産休に入る前に提出してもらったほうが、郵送などの手間が省けていいかもしれませんね。
https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/07/dl/tp0701-1p_0004.pdf

⑤育児休業等取得者申出書⇨年金事務所へ

「育児休業等取得者申出書」は、従業員から申出を受けた事業主が年金事務所に提出することで、育休中の社会保険料が免除されるというものです。育休は従業員からの申請内容によりますが、原則子どもが1歳になる前日までで、やむをえない事情(保育園に入園できなかった等)の場合は延長となり、その場合は延長申請が必要となります。
▼申出書の書式はこちら
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/ikuji-menjo/20140327-05.html

⑥育児休業給付金の給付申請⇨ハローワークへ

「育児休業給付金」は、育休中に無給になり(会社の規程にもよりますが)生活が苦しくなるのを防ぐための制度です。社員から育休取得を希望する旨を伝えられたら、事業主がハローワークに対して提出します。
▼ハローワークインターネットサービスはこちら(お近くのハローワークで申請書を入手することもできます◎)
https://hoken.hellowork.mhlw.go.jp/assist/001000.do?screenId=001000&action=ikujiFirstLink

育児休業給付金の内容については、2年くらい前までは育児休業を分割で取得できなかったのが、現在は分割で取得できるように制度が変わっていたり、「産後パパ育休」という名称で、産後8週間以内に4週間取得できる(ママはその期間、産前産後休業にあたります)制度ができたり、日々変化が激しいです。「異次元の少子化対策」として、2025年度から給付金が現行手取り8割⇨手取り10割に増額することが検討されているようですし、育児休業の申請を受けたら、常に最新の情報を確認するように注意しましょう。

⑦育児休業等取得者申出書/終了届⇨年金事務所へ

育児休業の終了予定日より早く育児休業を終了(予定より早く復帰する場合、育休中に2人目の産休に突入する場合、子どもが死亡した場合等)するときは、事業主を通じて年金事務所へ終了届の提出が必要です。
▼日本年金機構の書式
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/menjo/20140403-02.html

⑧育児休業等終了時報酬月額変更届⇨年金事務所へ

育児休業から復帰後、フルタイム勤務から時短勤務に切り替える人も多いです。労働条件の変化に伴い、当然給与も変化します(だいたい給与額が下がるケースが多い)。給与額が下がったのに社会保険料がそのままだと負担が増えてしまいます。そこでこの「育児休業終了時報酬月額変更届」を提出し、下がった給料で社会保険料を計算しなおしてもらいます。

社会保険料が下がると、毎月の負担は軽くなりますが、2人目以降の出産を間近に控えている方は出産手当や傷病手当金の額も下がってしまいます。従業員とよく話し合い、この届出を提出するかを決めてください。

▼日本年金機構の書式
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/menjo/20140626-01.html

⑨養育期間標準報酬月額特例申出書⇨年金事務所へ

上記⑧で社会保険料を下げると、将来的に受給できる年金額も下がってしまいます。そこで特例措置として、子どもが3歳に到達するまでは、養育開始前の標準報酬月額に基づく年金額を受給できるようにしたものです。こちらも⑧と同様、本人から申出を受けた事業主が年金事務所へ提出します。
▼日本年金機構の書式
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/menjo/20141203.html

職場復帰後の働き方

職場復帰後も、子どもの養育は続いていきますので色々と働き方に配慮が必要です。育児介護休業法で定められているものを中心に並べてみました。「異次元の少子化対策」のひとつに「3歳までは在宅勤務できるように制度を整えるよう、企業側に努力義務を課す」というものがあります。今後も様々な少子化対策がとられることと思いますので、最新情報を常にチェックしていくように注意しましょう。

子の看護休暇

育児介護休業法によって、小学校就学前の子どもを養育する社員に対し、会社で認めている休暇とは別に「子の看護休暇」制度を設けなくてはなりません。日数は1年度につき5日間(子どもが2人の場合は10日)で、1日単位、または半日単位で取得できるようにしてください。有給か無給かは会社によって異なります。就業規則に規程がない場合は追記しておきましょう。

時短勤務について

育児介護休業法によって、子どもが3歳に到達するまでは時短勤務を選択できるようにすることが義務づけられています。また、時短勤務を選択しなかった場合でも、従業員が請求すれば、所定労働時間以上に働かせてはいけません。

時間外労働の制限

育児介護休業法の定めとして、小学校就学前の児童を養育する従業員が請求した場合、1か月に24時間、1年間に150時間を超える時間外労働をさせてはいけません。

深夜残業の制限

育児介護休業法の定めとして、小学校就学前の児童を養育する従業員が請求した場合、深夜(22時から5時)に労働させてはいけません。
育児介護休業法では小学校就学前となっていますが、小学生をひとりで深夜お留守番させるのは親としてはとても不安なことです。実際には各家庭の状況に配慮した会社の対応が求められます。

まとめ

ちょっと長くなってしまいましたが、以上が企業として最低限対応すべき事項です。こうして並べてみると結構な量のタスクがあることがわかります。就業規則の整備や、総務担当のマニュアルを作成し、抜け漏れがないように注意しましょう。また、流産等で気を遣わせることのないよう、安定期(妊娠5ヶ月頃)に入ってから会社に報告するという方もいらっしゃいますが、会社にとって報告は早いに越したことはありません。直属の上司や総務の方だけでも、できるだけ早めに報告するようにしましょう。

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