信託型ストックオプションが終了? 譲渡所得の認識だったのが給与課税で大騒ぎ、国税庁と経済産業省が説明会!

信託型ストックオプションは終了

2023年5月29日に行われた、信託型ストックオプションについての『国税庁と経済産業省による説明会』の内容に注目が集まっています。
▼日本経済新聞の記事
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC295H10Z20C23A5000000/
▼国税庁のQ&A
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/230428/pdf/01.pdf

目次

そもそもストックオプションとは?

ストックオプションとは、株式会社に務める従業員や役員が、自社の株式をあらかじめ決められた価格で取得できる権利のことです。

この図表の例だと、500円/株×100株=5万円で購入した株を、1.500円/株×100株=15万円で売却しているため、15万円ー5万円=10万円の売却益(キャピタルゲイン)となります。

会社の業績が上がれば、株価が上昇しますので、実質的には社員へのインセンティブとして利用されています。

従業員にとってはインセンティブを受けることができるメリットがあるとして、多くの企業がストックオプションを利用しています。ストックオプションにはいくつか種類がありますが、今回は「信託型ストックオプション」の課税について、国税庁が新たな見解を示したため、特にベンチャー企業を中心に話題となっています。

信託型ストックオプションとは?

信託型ストックオプションとは、企業と従業員の間に信託銀行を噛ませた形の報酬制度です。

企業はストックオプションを信託に預け、従業員には企業への貢献度合いに応じてストックオプション交換ポイントを付与し、信託期間満了時にストックオプションがポイント数に応じて割り振られます。

信託型ストックオプションのメリットとされる点
  • 信託に預けた時点の条件(行使価額等)でタイムカプセルのように保管できる。
  • 中途入社の人に対し、時価ではなく預けた時点での価額で付与できるので公平性が保てる。
  • 節税対策になる(詳細は後述します)。

従来型のストックオプションでは、ストックオプション発行時に在籍している社員に対し、誰にどの程度割り当てるかを決めなくてはならないので、人事評価によって付与数を変えたい企業にとって、信託型ストックオプションはメリットがあると考えられ、ベンチャー企業を中心に急速に広まっていきました。

その「信託型ストックオプション」に対し、国税庁が「給与として税務処理が必要。最大55%課税する。」と発表し、現在の20%より税負担が増えることになるため、話題となっているのです。

そもそもの経緯

そもそも、すでに確立してる『税制適格ストックオプション(※)』の制度を使えば、ストックオプションで貰った利益も普通に20%課税になります。ですが労務の対価では無いので、権利行使期間や権利行使額に制限があります。貰った人は直ちに資金化できません。役務提供の対価ではあるものの例外的に課税繰延べを許容するという解釈で、退職金の税率が低いのと同じ考え方です。教科書的には「有償ストックオプション」と言ってる制度も20%課税ですが、単純に新株予約権を会社が個人に売るだけのデリバティブ取引です

ところが2015年頃、『信託型ストックオプション』を霞ヶ関にあるコンサル会社が新しい節税商品として作りました。これが何故か2017年頃からブームになり、上場企業を含め、結構な数の会社が導入しました。

税制適格ストックオプションとは?

通常、ストックオプションは権利行使時と株式譲渡時に課税されますが、税制適格の条件を満たせば権利行使時の課税を繰延べできるというものです。株式譲渡時には、譲渡益に対して20%(所得税15%、住民税5%)と復興特別所得税が課税されます。

高額報酬に対する節税商品

大雑把には「信託型ストックオプションの形で払えば、給与所得でなく(=労働対価でなく)て売買益になるよ。譲渡所得だから20%の分離課税になり、給与や賞与で所得税払うよりお得!」といった商品です。

既存のストックオプションでも、設計費用や弁護士等のリーガルコストで数十万かかりますが、信託型ストックオプションは設計が複雑なため、制度設計時に1000万円程度が必要となります。それを前提においたとしても、課税所得4,000万円以上は所得税45%+住民税10%で合計55%の課税となり、課税所得の半分以上も税金を支払わないといけないことを考えると、初期費用に1,000万円程度の手数料を弁護士とコンサル会社に払っても、節税効果で割が合うと考えたようです。

テクニック的には、あいだに信託銀行を噛まして税務上の「法人課税信託」を作り、「法人課税信託」が新株受益権を発行して渡す。だから労働対価じゃない=給与所得じゃない=譲渡所得だから税率20%!といった理屈でした。払って直ぐに換金しても税率20%でOKと言う意味です。

税務や会計的には?

一方で、会計や税務の世界の人では『そんな無茶苦茶な理屈、誰が見たって無理だろ!』といった感覚でした。そもそもストックオプションや新株予約権の現在価値の計算等は、ブラックボックス的な意味がありセンシティブな部分です。その上さらに払い出しを迂回させた所で、実質的に報酬の支払いなのは変わりません。

『実質主義』が税法の根本概念です。この件では弁護士さんも税制適格ストックオプションの販売に関連してリーガル手数料もらっていました。しかし会計や税務の世界と法曹の世界とでは、根本的な部分の考え方に距離感があります。誤解を恐れず単純化すれば、会計や税務で言う実質主義とは『常識的に俯瞰して駄目なものは駄目だろ』といった概念イメージです。判例や条文を扱う法曹の世界とは異なり、会計基準や税法の字面を絶対視するイメージではありません。

既存には鞭、これからには飴

すでに発行済みの信託型ストックオプションは、過去に遡って課税される見込みです。どしようも無い感じがします。キャッシュを使ってしまっている人が大抵ですから、納税資金が大変です。

しかしこれから発行されるストックオプションに関しては(確定はしておらず、通達等はこれからですが)、時価を非常に低い価格で算定できる余地を含ませています。会計と税務の距離の問題はありますが、欧米基準より相当有利な税務的な考え方です。国税庁だけでなく『国税庁と経済産業省による説明会』での発表だったのは、スタートアップ支援強化を掲げる経産省との政治があったのかもしれませんね。

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